
芝倉山前平におけるコナラのあがりこ
鈴木和次郎 (独立行政法人 森林総合研究所 研究員・只見の自然に学ぶ会顧問)
●現地調査・データ解析は鈴木和次郎・菊池 賢(ともに森林総合研究所)
只見の自然を学ぶ会の会報で、鉱山跡付近にナラのあがりこがあると知った時、それはおそらく鉱山の事業に関係するもので、比較的新しいものだと考えた。あがりこの数もさほど多くないと聞かされたので、最初は調査するまでもないかなと考えたが、やはりナラのあがりこには魅力あった。昨年秋と今年の積雪期の2度にわたる調査を行う中で、このあがりこ集団が規模も大きく、歴史も古く、地域住民の生活と密接に関係していることがわかってきた。ここでは、今回の調査で明らかになってきたナラのあがりこ林について、中間的な報告をする。
奇木と落とし穴
只見の芝倉山山麓、鉱山跡の上部に広がる“前平(まえでえら)”と呼ばれる台地の上に、その不思議な樹形の樹木群がある(写真1・2)。地際から3〜4mの高さで多数の幹を出す直径が最大で1m以上もある巨木集団である(写真3)。この巨木の樹種名はコナラである。コナラは各種の樹木図鑑などでは直径が60〜80cmほどになる落葉性の高木と記されているが、ここのコナラは、それをはるかに超えるサイズである。もっとも、コナラは日本の農用林、薪炭林を代表する樹種で、短い周期で伐採が繰り返されることから、大きなサイズのものを見ることは稀である。実際、年を食ったコナラでは、1mを超えるサイズも無いではない。

さて、この芝倉山山麓の奇妙な樹形のコナラはどのようにして生まれたのだろうか? 実は、自然に形成されたものではありません。人の手が加わってできたと言うことが判って来ました。この不思議な形をしたコナラが見られる森林は、近くの黒沢集落の共同山(共有林)で、古くから、集落の人たちが、薪の採取や炭焼きのために利用してきた歴史があります。実際、その痕跡をこの林に見ることができます。この林は、ユキツバキが林床を覆っているのですが、そこに直径1〜2mほどの穴が無数にあります(写真4)。これは「かじこ焼き」と呼ばれる炭焼きの跡です。「かじこ焼き」、別名「かじ(鍛冶)焼き」は、炭焼き窯を作らない初歩的な炭焼きの形態で、地面に穴を掘り、そこに薪を入れ、火をつけて土をかぶせると言う伏焼きの一形態で、主に自家用炭を焼くための小規模製炭法で、近世以前、日本各地で広く行われていたものです(写真5)。ちなみに、かじ焼きのかじは、鍛冶のことと思われ、鍛冶屋で使われた柔らかい炭の製造に適していたものと思われます。かじ焼きは、只見地域では、ごく最近まで行われ、里山に立ち上る炭焼きの煙は、晩秋の風物詩だったのではないでしょうか。黒沢の共同山では、かじこ焼きは、40年ほど前まで行われていたものと思われる。それは、コナラのあがりこ群の間に生育している様々な樹種の小形木の樹齢から推察されました。
写真上から
写真1:芝倉山山麓、鉱山跡上の前平にコナラのあがりこ群がある
写真2:黒沢集落の共同山にあるコナラの巨木群
写真3:直径が1mもあるコナラの巨木。3m付近で枝分かれをしている
写真4:林床には無数の穴ぼこ
写真5:かじこ焼きの風景(新国氏提供)
あがりこ林の構造
さて、「コナラのあがりこ」だが、その実態は、どのようなものなのであろうか?
あがりこ型樹形のコナラは、ホオノキやアオダモ、コシアブラなどの落葉広葉樹の小形木からなる二次林内に、ぽつぽつと存在する。その密度は、ヘクタール当たり50〜100本といったところである。サイズは、胸高直径で60〜120cmといったところで、特徴的なのは、根元から3〜4mの場所で、枝分かれし、さらに、それぞれの枝がその先1mほどの高さで細かく枝分かれをしていることである。また、さらにその上で分枝する場合もある。まさしく箒をひっくり返したような樹形が見られる(写真6)。このような樹形の樹木は、コナラが圧倒的に多いが、中にはミズナラやクリなども見られる(写真7)。全てブナ科の樹木であるというのも面白い。このような樹形は、ブナの「あがりこ」に代表される樹形で、「あがりこ」と呼ばれ、台伐り萌芽の結果生み出される樹形と言われている。「あがりこ」は、地際から萌芽幹(子供の幹、あるいは芽)が発生するのではなく、幹の上部、すなわち上がった場所から萌芽幹が発生するところから名づけられたものと思われる。ちなみに、只見地域には、部分的ではあるが、ブナのあがりこも存在している(写真8)。
 
写真上から
写真6:箒をひっくり返したようなコナラのあがりこ
写真7:クリのあがりこ
写真8:ブナのあがりこ。ただし、伐採後放置
あがりこは、どのようにして生まれたのか?
では、具体的にコナラのあがりこ型樹形は、どのようにして生まれたのでしょうか?
「あがりこ」といえばブナですが、これは多雪地帯における雪上伐採とそこから発生する萌芽幹を育て、それを繰り返し伐採し、春木(薪)として利用する。その利用形態が独特の「あがりこ」型樹形を生み出してきた。では、コナラの場合は、どうか? コナラの場合も、やはり同じ雪上伐採と萌芽再生を活用した薪材生産がその背景としてあったとみられる。ただし、コナラとブナでは幾分違いが見られるように思われる。ブナの萌芽性は、比較的地際より高い場所でも発生する。ただし、この場合でも幹サイズが大きくなると発生しづらくなると言われている。また、萌芽幹が順調に成長するためには、養分が必要となるため、通常は発生した数本の萌芽幹のうち、少なくとも1本は残して伐採利用するというのが一般的である。残した幹は、台伐り位置から発生した新たな萌芽幹が成長した後に伐採することになる。
一方、コナラの場合、萌芽性が高いため、地上部を全て伐採しても、萌芽幹は発生成長する(写真9)。ただし、台伐り位置が高くなると萌芽力が極端に落ちるとされていた。こうした萌芽特性からコナラについては、台伐り萌芽更新は難しく、あがりこ型樹形は形成されないと考えられてきた。したがって、当初、鉱山跡の上の台地で、あがりこ型樹形のナラがあると聞いた時、それはミズナラと思い込んでしまった。ミズナラのあがりこについては、鳥取の大山山麓でも見たことがあり、その可能性を確信していたためである。実際に昨年(2009年)秋に現地調査を行った際も、当初はそれがミズナラであると信じて疑わなかった。ところが、地面に落ちている落ち葉はほとんどがコナラで、成長錐で幹の採取をしても、極めて硬いことがわかり、確信が揺らいだ。そして、よく観察をしてみると、明らかにコナラである。この事実は、まったく意外なものであった。つまり、コナラは台伐り萌芽が難しく、あがりこを形成しないと言う常識が破れたのである。では、どうして、コナラのあがりこが形成されたのであろうか? それは、やはり多雪という環境がなせる技と考えざるを得ないだろう。すなわち、積雪はコナラをして、台伐り位置を地表面と勘違いさせる効果である。奇抜な発想ではあるが、十分ありうるように思われる。積雪は台伐り付近の幹の乾燥を防ぐばかりか、材部の枯れ腐朽すらも妨げる。これは発生した萌芽芽の成長にとっては極めて好適である。
写真9:コナラの薪炭林施業。地際で伐採更新させる
コナラで伐採位置が上がっていく訳は?
それにしても、コナラにとって、地際から高い位置での萌芽再生は不利であることには違いがない。そこで,取られる方法が、ブナに見られる萌芽幹の一部保残法である。一部の萌芽幹を残すことで、伐採位置から新たに発生した萌芽枝に養分を供給することが可能となり、その生残率を高める効果が期待できる。こうした技術は、全くの試行錯誤の結果生み出された部落特有の技術なのか、それとも普及伝播してきた技術なのかは定かでない。ただし、こうした利用法がこの地域に広がりを持たないことから、やはり試行錯誤の結果と見るのが妥当ではないだろうか?
もう一つの問題が、伐採時の幹サイズである。先に述べたようにコナラは萌芽性が極めて高い。ただし、それは幹のサイズが小さい時である。サイズが大きくなるにしたがって萌芽性は落ちる。そこで、台伐り位置のサイズを下げるとすると、より高い位置で伐採を行わなければならなくなる。そうした結果が台伐り位置の上昇である。一番下の台伐り位置は、おそらく積雪深によって決まっただろう。それにしても、第1段目の台伐り位置が3〜4mと積雪深に比べ高いのが気になる(写真10)。確かに近年、積雪が減少傾向にあるとはいうものの、雪の締まった春木伐りの時期に、この積雪深は考えづらい。結局は、萌芽性を考えて、最も低い枝付近での伐採から始まったと考えるのが妥当だと思われる。
ブナの場合は、ほぼ一定の場所で、台伐り萌芽が繰り返し行われているが、コナラの場合は、台伐り位置が樹木の成長と共に、上昇している。これは、両種の萌芽特性の違いによるものと考えられる。
それでは、黒沢共同山の場合、このような森林管理がどの時代に始まり、どの周期で伐採が行われ、いつまで続いてきたのだろうか?それを知る手がかりは、成長錐によって採取した幹のコアの解析(写真11)によって、ある程度は知ることができる。それによると、あがりこコナラの元幹の樹齢は、少なく見積もっても170年以上あり、最後の伐採後、萌芽再生した幹の樹齢は40年生と推定された。その元幹の推定樹齢は60年生と推定されるところから、およそ20年ごとに伐採が繰り返されてきたことを示している。この20年の周期は、割らずに使える薪のサイズでもあり、また、萌芽再生に適したサイズでもある。こうした薪炭林施業は、40年前に終わりをつげたが、これは燃料革命により、燃料としての木質資源が石油に取って代わった時期に一致する。一方、謎も残る。こうした萌芽更新を利用した森林施業はいつごろから行われるようになったのか? これもまたコアの成長解析の中で明らかになると考えている。すなわち、台伐り時に元幹の肥大成長は極端に減少するからである。
あがりこ型樹形のコナラは、一般のコナラのイメージとは異なり、巨大である。それは、樹齢が170年以上と老齢であると同時に、台伐り萌芽が大きく影響しているものと考えられる。すなわち、台伐り部分で多数の萌芽幹を発生させることから、これら萌芽幹を支えるために、発生部分で異常成長を引き起こし、その結果、幹の肥大化、奇形を生み出すものと考えられる。これが台伐り萌芽=ポラード(あがりこ)の特徴の一つでもある。
写真上から
写真10:積雪期のコナラあがりこ林。台伐り位置が積雪高よりだいぶ高い
写真11:木に登って成長錐により萌芽幹からコアを採取し、幹齢を推定する調査
コナラのあがりこは、地域の文化遺産、歴史遺産
コナラのあがりこは、只見のような多雪地帯における雪上伐採と萌芽更新による薪炭林施業によって生み出されたものである。したがって、只見地域の歴史的な森林利用の一形態、歴史的な所産であるとも言える。今日、その利用形態は消滅したが、地域の歴史と人々の生活を今に伝える貴重な文化遺産といってもよい(写真12)。加えて、コナラのあがりこは、全国的に見ても珍しく、その樹形のユニークさと巨木群は人の目を引き付ける優れた景観でもある。ぜひとも、後世に伝えるべき、地域の価値ある財産である。最近、ナラ林に広がるナラ枯れが只見川流域に拡大する勢いである(写真13)。そして、これらコナラもその対象となる可能性が大である。ぜひとも、保護していきたいものである。

写真左から
写真12:積雪期のコナラあがりこ林。只見の地域的遺産として保存が望まれる
写真13:迫りくるナラ枯れ。コナラも被害の対象となる
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